<STORY>BL彼女とシナリオライター #3
あらすじ
女性向けソーシャルゲームのシナリオライターとして働く「美穂」とその友人「花鈴」の物語。ある日、友人の「花鈴」からの突然の電話。仕事に、趣味に、そして恋愛にもすべてが順調そうに見えた彼女の身に何があったのか…?
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第1話
第2話
第3話
仕事を定時までこなしてから、花鈴のマンションに向かった。住所は知っているけど、そう言えば一度も行ったことはない。
スマホのナビを頼りに辿り着くと、そこは小さいけれど、今時らしいオシャレなマンションだった。302号室のインターホンを鳴らす。
「入って……」
花鈴のくぐもった声が聞こえて、部屋に入る。
1DKの部屋に入ると、壁や棚一面に花恋のグッズが置かれていた。ポスターや抱き枕、クッション、キャラクターのフィギュア。たくさんの物が所狭しと並んでいる。その中で、ベッドに腰掛けた花鈴が力なく泣いている。
「どうしたの?何があったの?」
そう聞くと、花鈴は声を詰まらせた。
「……プロポーズされた」
「え?」
「彼氏に、プロポーズされたの……」
そう言って、花鈴はまた涙をこぼし始めた。
「よかったじゃん。プロポーズなんて」
「それが……結婚するなら、腐女子をやめてって言われたの……」
「えっ?」
意外な方向に話が転んでいく。花鈴は悲しみを露わにした。
「ゲームも、グッズも、イベントも……ダメだって。私、ずっとそれだけを楽しみに生きてきたのに」
花鈴もそう言って部屋を見渡した。きれいに並べられたCDやゲーム。大切にビニールをかけられたサイン色紙。二年前花恋が始まるより前から、花鈴はこの趣味にかけてきたんだと思った。
「どうして彼氏はそんなことを?」
「私、花恋だけで年に二百万くらい使ってるの。ガチャ課金したり、週末はイベントで全国回ったり……」
その話は前に聞いたことがあった。生活費以外のほとんどを趣味に充てていると。
「お金がかかるからってこと?」
「それが一番大きいけど……。結婚したら二人のお金になるから、自由にはできないのかな」
「ほかにもあるの?」
「うん……」
花鈴はもう一度声をくぐもらせる。
「オタクとは結婚したくない、って言われた……」
声に出すとショックが大きいようで、彼女は苦しそうな声を出す。
「ねえ……彼氏と別れたら?そんなにつらいなら」
しかし、花鈴は首を振る。
「もう三年も付き合ったんだよ。私ももう三十になっちゃったし。……今更、新しい恋愛なんて」
花鈴は力なく笑った。まるで自嘲するように。
「それに、私、あの人のこと、本当に好きだから。花恋とどっちが好きかはわからないけど、ゲームとは結婚できないからね」
その言葉は、本当に花恋との決別を決めているように思えた。
「私、この部屋のもの、全部捨てる。だから、片付けの日は手伝ってね」
花鈴は目に固い決心を込めて、私に少しだけ微笑みかけた。
(つづく)
著者紹介
野溝さやか
9月12日生まれ、ギャルゲー大好きシナリオライター、脚本家、演出家。特にヤンデレが大好物。執筆作品「DEAD OR ALIVE6」など。
http://end-up-roll.main.jp/?page_id=107
Twitter @sayaka_sophians
企業概要
ヴァンパイア株式会社
2019年7月設立、代表取締役 加藤洋平
http://www.vampirekk.com/
Twitter @vmpkk