<STORY>BL彼女とシナリオライター #4

あらすじ

女性向けソーシャルゲームのシナリオライターとして働く「美穂」とその友人「花鈴」の物語。ただならぬ雰囲気で電話をかけてきた友人宅に駆けつけると、彼女は涙を流しながら言った「腐女子はやめる」

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第1話
第2話
第3話

第4話

花鈴の部屋を後にして、自分の部屋に帰った。ベッドに洋服のまま転がると、自分の部屋が見渡せる。

「なんにも……ないなぁ……」

私の部屋には、私という人物を語れるようなものが何もない。机とパソコン、ベッド。特徴のないものが並んでいるだけだ。花鈴の部屋のように、好きなものを語りかけてくるような部屋ではない。これが、私という人間のつまらなさで、空っぽさだ。

私は花鈴を羨ましく思っていた。私にないものを全て持っている花鈴。いつもキラキラした充実感を漂わせる花鈴。その花鈴が――あんな風に泣くなんて。

花鈴から趣味を奪われたとしても、彼女にはまだ恋も仕事も残っている今は泣いていたとしても、きっと花鈴は幸せになるだろう。私は花嫁姿で微笑む花鈴を思い描きながら、眠りについた。

*

朝、会社で最初にやることは、スケジュールの確認だ。今日一日、会議が入っているかどうか確認して、作業の進捗予定を決める。私の場合はついでに一週間先までスケジュールを見てしまう。すると、いつも入っている会議が、来週だけ抜けていた。

「河西さん、来週のシナリオ定例って…」

一応、河西さんに確認を取ると、彼女は朝の気怠いテンションでこちらを向いた。

「来週、その時間にプランナー会議入ったから、シナリオ定例はなしにしたの」
「プランナー会議?」
「そう、三周年イベントの企画、決めるから。早坂さんも参加する?」
「いえ、いいです……」

末端のシナリオライターが、プランナーの会議になんか出たって仕方ない。私に出せる意見なんて、何もないのだから。

派遣として入社してすぐの頃は、プランナー会議に出たこともあった。けれど、プランナーはもちろん、プロデューサーやディレクターなど、普段私が関わることのないようなメンバーが揃っていて、口を出せる雰囲気じゃなかった。彼らの口からは、ほかのゲームや漫画の名前もたくさん出る。無趣味な私には到底ついていけない。

そして、何より、花恋のキャラクターをみんな本気で愛している。その中で、自由にカップリングをしたりして妄想を膨らませる人も多い。誰もが、花恋に半端ではない熱量を持って仕事をしている。それを思い知らされ、自己嫌悪に陥るから、私はプランナー会議には出なくなっていったのだ。

そして、私もこの時はまだ、今回も会議には出ないと決めていた。普段通り、一日中誰かが決めたシチュエーションをシナリオにして、自分の仕事はここまでだと線を引いていた。

(つづく)

著者紹介

野溝さやか
9月12日生まれ、ギャルゲー大好きシナリオライター、脚本家、演出家。特にヤンデレが大好物。執筆作品「DEAD OR ALIVE6」など。
http://end-up-roll.main.jp/?page_id=107
Twitter @sayaka_sophians

企業概要

ヴァンパイア株式会社
2019年7月設立、代表取締役 加藤洋平
http://www.vampirekk.com/
Twitter @vmpkk