<STORY>BL彼女とシナリオライター #2

あらすじ

女性向けソーシャルゲームのシナリオライターとして働く「美穂」とその友人「花鈴」の物語。友人が人生を捧げるゲームのシナリオを書いているのは自分自身。しかしそれを言い出せずに…

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第1話

第2話

「美穂、クリスマス 蒼太引いた?ガチャストがめっちゃ蒼×旭だよ!」

知ってます、それ、書いてます。 そんな気まずい気持ちを花鈴の前で出すことはない。

「持ってないんだー。私も蒼太ほしくて50連したんだけどね」

今日もいつものように、さらりと嘘をつく。私は花鈴の前では、『蒼太推しの一般人』を演じている。

「そっかー。でもマジ、今イベ最高!運営神!」

そう。興味はなくても、誰かにこんな風に言われたら、悪い気はしない。
花鈴に出会ったから、私はこの仕事を続けてこられたんだと思う。 だから、こうして花鈴と過ごす時間は、とても大切だ。

「――あ」

ゲームをいじっていた花鈴の手が止まり、素早くメッセージを打つ。

「彼氏から?」
「そう。今夜これから空いてるかって。イベ走ってるから行けないって言うわけにもいかないよね」

そう言いながらも、花鈴は幸せそうだ。 仕事に、恋愛に、趣味。 花鈴は私が持っていないものの全てを持っている。

「早坂さん」

翌日、仕事中に呼ばれて顔を上げると、いつも通り河西さんの年齢より少し疲れた顔が見えた。

「ホワイトデーのキャラシナリオ、修正良かった。あれ、FIX連絡しといて」
「あ、はい。ありがとうございます!」

言われるがままに、伊藤さんにチャットでスクリプト依頼を送る。

何が良かったか、聞けばいいのかもしれないが、萌えるとか言われても理解できないから聞かない。後ろの席を見ると、伊藤さんからOKとジェスチャーが返ってきた。スクリプターがイラストの表情を指定して初めて、私達が書いたシナリオはゲームになる。それから、デバッガーがバグの検証をしたり、エンジニアが実際ゲームにシナリオを取り込んだりという作業が入り、お客様の手に渡る。動くキャラクターを花鈴達が見られるようになるのは、二ヶ月後のことだ。私はその日が来る頃には夏のシナリオを書いていることだろう。

その昼休みのこと――。


私のスマホに珍しく着信が残っていた。花鈴からだ。花鈴が平日の昼間に電話をかけてくることなんて、今まで一度もない。かけ直すと、ワンコールで花鈴は電話に出た。

「……美穂……。私、腐女子辞める……」

花鈴は掠れた声で、続ける。

「花恋も……やめる……」

花鈴の声は嗚咽を孕み始める。ただごとではなさそうだった。

「仕事終わったら、家行くから!」
「うん……。私、今日会社休んでるから、待ってる」

そう言って電話は切られた。 あの花鈴が仕事を休む? 一体何があったのだろうか……。

(つづく)

著者紹介

野溝さやか
9月12日生まれ、ギャルゲー大好きシナリオライター、脚本家、演出家。特にヤンデレが大好物。執筆作品「DEAD OR ALIVE6」など。
http://end-up-roll.main.jp/?page_id=107
Twitter @sayaka_sophians

企業概要

ヴァンパイア株式会社
2019年7月設立、代表取締役 加藤洋平
http://www.vampirekk.com/
Twitter @vmpkk