<STORY>BL彼女とシナリオライター #5
あらすじ
女性向けソーシャルゲームのシナリオライターとして働く「美穂」とその友人「花鈴」の物語。キラキラした友人と違い、自分には何もないな…と空虚な気持ちになる。仕事面でも、情熱を燃やすことができずに…
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第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
花鈴の部屋に呼ばれたのは、日曜日だった。
「さあさあ、これ全部捨てちゃって!」
大きなビニール袋を何枚も持って、花鈴は気合いを入れているように装う。その笑顔はどう見ても無理していた。
「捨てるのはもったいないと思うけど……。どこかで売るとか……」
「ダメ。ほとんどがプレミアついてるから、転売みたいなことしなくないの」
売れば一財産になりそうなのに、そこは矜持が許さないようだ。
「じゃあ、美穂、お願い」
花鈴は私にビニール袋を手渡した。
「やっぱり、私にはできないから、美穂が一思いに片付けてくれないかな」
「私がやっちゃっていいの?」
「うん、美穂になら頼める」
じゃあ……と、一つ一つのグッズを丁寧にビニール袋に詰めていく。クッション、タオル、パーカー。社内でも持っている人が少ないほどプレミアがついたものも確かにあった。
「あ……花鈴、これ」
「何?」
「このTシャツ、あのリアルイベントの時の……」
花鈴はそれを聞いて悲しそうに笑った。
「覚えてるよ。あの日、美穂に出会えて、本当に良かった」
*
花鈴に出会ったのは、二年前だった。
その頃の私は入社して半年で、自分が書くゲームをどんな人が遊んでいるのか知りたかった。だから、会社が主催するリアルイベントに、参加してみた。声優さんを呼んだり、朗読劇があったりと、規模は大きくなくてもみんな楽しめていたようだった。たくさんのユーザーの笑顔を見ることができて、私は満足していた。
「ねえ、蒼太推し?」
そんな風に声をかけてきたのは、一人の女性。私の鞄についていたストラップに気づいたのだろう。会社でもらったものだが、そこでは言わない方がいいと思い、首を縦に振った。
「マジでー!私、蒼×旭推しなんだ!花鈴っていうの。よかったらよろしくね!」
そう言う花鈴の全身は、花恋のグッズで固められていた。実は、『蒼×旭推しの花鈴』の存在は既に知っていたのだった。社内でも、花鈴のSNSを見ている人が多く、そのフォロワーは千を超える。花鈴の熱狂ぶりについては、私も聞きかじる程度には聞いていた。
「連絡先、交換しよ!」
花鈴に言われ、連絡先を交換した。私は少しだけ後ろめたい気持ちがあった。
「これで私達、花恋友だね!イベの感想とか言い合おうね」
私は、その輪には入れないことを知っている。だけど、こんなに眩く笑うユーザーとは、もう少し話してみたいと思った。
(つづく)
著者紹介
野溝さやか
9月12日生まれ、ギャルゲー大好きシナリオライター、脚本家、演出家。特にヤンデレが大好物。執筆作品「DEAD OR ALIVE6」など。
http://end-up-roll.main.jp/?page_id=107
Twitter @sayaka_sophians
企業概要
ヴァンパイア株式会社
2019年7月設立、代表取締役 加藤洋平
http://www.vampirekk.com/
Twitter @vmpkk